帰る場所

ふわふわと浮いた球の上に居るものだから何が起きても不思議はない。
冷戦の結末にベルリンの壁につるはしを振り下ろし、
コンクリートが砕け散る。
人々が狂喜しているその様に心弾んでみたが、
寂しくも持っているものは変わらない。

何かの一編に『岸から手を離す』とあった。
憂いてみても切りがない、存分に生きてみようという主旨だった。
『存分』をするには帰る場所がいる。
日本の農家や住居のもとになった竪穴式住居や岩陰や洞窟に
身を寄せていた時代と現在も変わりなく
その空間で食べ、語り、祈り、思いに耽る。

空間という器に文化や信仰を映し、
穏やかさや静けさを纏わせ時間をかけて美しさを住人が重ねてゆく。
器に完成はなく、父性と母性を持ち合わせた生き物のように思う。