触覚
手で土に空間をつくる
この器の中に人が住んだら
器の中からみえるもの
器の中で育つ子供のひとかけらに
器の中でやがて消えてゆく時想うこと
目に見えないものや人間の不完全さに
共鳴するものがつくりたい
「叙情的であること」
透明ではなく 軽さでもなく 浮遊したものでもない
つくる建築はその反対でありたい。
たとえば丁寧に装幀された本
紙をめくる手触りと紙の微かな匂い
太陽に照らされ ざらつく陰影は目に触れ
身体を通して一冊の本の物語を感じる
それは小さな幸福感と思います。
そのことに建築を重ね合わせると
木扉の鉄取手の手触りに重みを感じ
壁は細やかな砂礫が手の跡を現す
積み重ねた石は静けさと安定を憶え
太陽は直接であれば影も頑として
間接であれば影も穏やかになり詩情が生まれる。
近年は半永久性を求め過ぎることで
情緒に乏しい素材を重ね
知覚体感としての豊かさを失い、
物を直すことも放棄されているように思います。
物質性を蔑ろにせず自然や長い年月を経てきた
素材を職人が見立て現場で再考する。
手に触れることや目を通して触れることによる
無意識での体感の多さが豊かな空間と
時間になり人の心に情感が生まれると思います。
そのことが幸福感へ繋がると信じて。
建築職人 上久保隆幸
RORとは「手触り」のこと