建築の世界に入るきっかけをくれた逸見さん。
京都で数寄屋の修行を終え帰岡し、仕事を続けていた。
大きな体で滑らかにゆっくり動く。
凪の如く決して誰にも怒ったりなどしない。
いつもうす汚れていたが、品があり諦観を漂わせていた。
規矩尺術を巧みに使いこなし、曲尺をくるくると回す。
黙々と滑らかに刻みものを組み上げる。
たまに出来たものが気に入らないと、工期や予算などお構いなしに黙々と壊す。
何も分かっていない私に、
「たとえば拳大の石があるとするじゃろう。ほんとに拳くらいの大きさなんか、
土の中の大きな石の先端なんか感じてわかる様にならんといけん」
この人ほんとに分かるんかなあと思いながら「はい」と返事をした。
「仕事」事に仕える。
自分の感覚に従って「美」を追求する真摯な姿勢を思い出し
今でもやはり憧れである。